家訓と味噌の深い関係

 

 

 

 

  

 

 

 

「家訓」と「味噌」の深い関係

 

味噌汁の味を変えることは、1つの政権を変えることより難しい

味噌とは1,300年もの長い間、日本人の食生活を支えてきた伝統食品です。基礎調味料である「さしすせそ」の「そ」にあたり、 微生物の力で作り出される発酵食品でもあります。

 

「みそは医者いらず」という言い伝えを聞いたことがあるでしょうか?昔からみそにまつわることわざがたくさんあり、みそと健康を結びつけたものが少なくありません。昔の人は、経験的にみその高い栄養価を知っていたようです。そして現在、みそは栄養学や医学の面からさまざまな研究が進められ、その成果も次々と発表されるスーパーな食品なのです。

 

「味噌汁の味を変えることは1つの政権を変えることより難しい」とは、NHKの朝の連続ドラマ「とと姉ちゃん」に登場したセリフです。たとえば、名古屋に住んだことのある家訓二スト、当時、毎日のようにだされる「赤だし」に慣れず困り切ったことがあります。しかし、名古屋圏の人にとっては、米味噌や麦みそこそ、慣れない味なのかもしれません。

 

日本では古くから地域の風土にそくした味噌づくりが定着してきました。暑さや寒さ、湿気、そして米、豆、麦と、地域の環境や特産に沿うように、様々な味噌を誕生させてきた歴史があります。味噌汁は、「おふくろの味」の代表例として語られることが多い食品です。母ちゃんの味とは、母ちゃんの母ちゃんの味、もし引っ越ししたとしても、味噌汁だけは、変わらないという家庭も多いのでしょうか?

 

平成30年3月8日、家訓二ストは、水戸市にて開催された全国味噌組合青年部の総会の席で、「家訓と味噌の深い関係 ~100年企業から1000年企業へ~」との演題で、基調講演を務めさせていただきました。

 

当日の講演の備忘録に加え、講演ちゅうには触れられなかった深すぎる家訓と味噌の世界をブログにて紹介させていただきます。 

 

 

 

 

  

 

 

 

味噌作りと子育ては似ている?

  

「手入れ」という知恵

味噌づくりに欠かせない「発酵」の技術。発酵とは、微生物の力を借りて、食品を美味しくする技術です。現代では、顕微鏡をつかい姿をみることのできる小さな小さな微生物たち、しかし私たちのご先祖さんは、目に見えない微生物のちからを巧みに引き出し、味噌や醤油。お酒に漬物と、多様な発酵食品を生み出してきました。

 

最近の発掘調査では、縄文時代には発酵食品が食べられていたことが分かっています。インターネットが進化し、近年ではAI(エーアイ)も登場し科学の進化はとどまることはありません。しかし、人間がいくら進化しても、蟻一匹、微生物1つ生みだすことは出来ていません。結局、原始の時代から現代まで、我が物顔で地球を支配してきた人類であっても、小さな微生物の力を借りることで、ようやく営みを紡いできたにすぎないのかもしれません。

 

画像は、清酒造りにかかせない「麹造り」の作業の様子です。こうした作業を業界では「手入れ」と表現します。微生物は小さくても1つの生き物。生き物である以上、わがままな奴もいれば、おとなしい奴もいる。そんな微生物の発育を促すために、「手入れ」という行程を行い、菌にとって、住みやすい環境をつくってあげる必要があります。

 

ボタンを押したら、ポンっと出てくる工業製品に比べ、発酵の食品は生き物相手の製品です。長い長い時間がかり、菌という小さな生き物の営みを巧みを利用することで、お酒や味噌をつくることとなります。「つくる」のではなく「うながす」。そして、ときには人智の及ばない美味しさや、いたずら?をする菌の世界。わたしたちの先人たちは、そんな目に見えない生き物を扱う知恵を「手入れ」と表したのではないでしょうか

 

子育てとは「手入れ」

そんな「手入れ」の発想は、子育てにも似ていると家訓二ストは考えます。作家の養老孟司さんは、その著作のなかで、「子どもは田んぼと一緒。努力・辛抱・根性で手入れを続けると、勝手に育つ」と提言し、親と子の新しい幸せを提案しています。子どもは自然。大人の思いどおりになんかなりません。子育ては田んぼの手入れのようなものという養老先生の子育て論は、多くの共感を呼んでいます。

 

ピアノ教室に通わしたところで、ピアニストになれるでなく、あれやれこれやれっと怒ってみても子どもは反発して離れていくばかり。。。しかし自分自身が子どもだった頃のことを考えれば答えは簡単です。子どもは工業製品ではない。ボタンを押したら育つのではなく、自然に育つもの。親ができることといえば、成長をうながすために餌?をあげ、土地をたがやし雑草をぬいておくぐらいのこと、親ができることは「手入れ」に徹し、子どもがもつ能力や才能をゆっくり見届けるぐらいしか出来ないのかもしれません。

 

味噌作りと子育てはなんか似ていると感じていただけたでしょうか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本の発酵文化

 

見えざる「菌」の力

1mmの何千分の1の大きさというミクロの世界。顕微鏡でしかのぞけない知られざる世界のなかに、何億、何兆という菌の世界が広がっています。たとえば人の身体には、100兆もの菌がすみつき、人間の生活を支えてくれています。腸内環境 (腸内フローラ)がよくなると、お肌の調子もよくなり、免疫力がアップします。この腸内環境を整えてくれるのが発酵食品。そして、発酵食品は必ず発酵を促す菌によってつくられます。代表的なものには、麹菌や納豆菌、乳酸菌など、どこかで聞いたことがある菌が並びます。

 

一方、菌のなかには悪さをする輩もいます。食中毒をひきおこすO-157などが有名です。人間にとって味方にも敵にもなる「菌」のパワー。人間は有史以来、菌の力を活用しながら様々な食品を発明してきました。

 

西洋では、チーズ。東洋では、味噌。またワインやウィスキーなども発酵食品です。見えざる菌の力を引き出すことで、人類は食生活に彩りをそえてきたのです。 「美味い」という気持ちは、人間の原始的な欲求でもあり、人生の豊かさそのものではないでしょうか?

 

日本の発酵文化

私たちに身近な味噌や醤油、お酒をつくるのが麹菌。この麹菌、日本の風土や気候に合ったもので、室町時代にはすでに発見されていました。スーパーなどで売られている多くの味噌や醤油、お酒などは、大量生産に向いている麹菌を研究し、商品にしています。そして、現代では発酵の研究がすすみ「味の素」で知られる「グルタミン酸ナトリウム」も、発酵法によって製造されています。

 

ユネスコ無形遺産「和食」

わたしたちの生活の中で絶対に欠かせない「食事」。日本人は長い歴史の中で、四季折々の食材をいかし、また貪欲に美味しさについて探求してきた民族でもあります。悠久の歴史の中で、「UMAMI」の作用を上手に活かしてきました。

 

明治時代、東京大学の池田博士は、昆布の美味しさの秘密を研究する中で、味覚の中に「UMAMI」の存在を発見し、結晶化することに成功。これを商品化にものが皆さんご存知の「味の素」になります。それまで世界では、味覚とは、甘味、塩味、辛味、酸味の4元味で構成されているとされてきました。池田博士の発見した5番目の味覚「UMAMI」は、その後、世界中に広まり、食卓に革命をもたらしました。

 

「UMAMI」成分を含有する食材は、日本では、かつお節や、こんぶ、シイタケがあげられます。西洋では、これが、コンソメや、フォンドボーに置き換わるそうです。意外なものでは、トマトは、野菜の中でも多くの「UMAMI」を有しているそうです。

 

味噌汁うまいっすよね? これはかつおの節ががんばっているから。

夜中のラーメン、やばいっすよね? これは、チョチョチョっと厨房で味の素を振り掛けているからなのです

 

複雑味とも表現される「UMAMI」は、日本の豊かな自然環境の中で育まれてきました。たとえば、醸造技術。前述の醤油でたとえると、材料となる大豆、麦をそのまま食べても美味しくありません。それが、麹をくわえ微生物の力で発酵させると、ゆるやかなに味に膨らみが出て、結果、多くの旨味成分が生まれます。

 

科学的にいうと原料由来のタンパク質が、微生物の出す「酵素」の力で分解され、高分子のタンパク質が、ペプチド、そしてアミノ酸に戻っていく過程が、醤油桶のなかで起こっています。このアミノ酸が、グルタミン酸にあたります。

 

四季の彩りが鮮やかな国、日本。長い歴史の中で受け継がれてきた伝統や文化は、世界でも稀な食文化を形成してきました。味覚とは、感受性の原点。そしてあなた自身をつくってきたものです。味覚とは感受性の原点です。あなたの価値観を親がつくってくれたことを、おかんの作る味噌汁の中で見直してみてください。

 

 

 

 

 

 

老舗大国・日本と醸造業界

 

厳しすぎる商環境

創業30年で99%の会社が倒産するとの恐ろしいデータがあります。一方、日本は創業200年をこす老舗の数は3000社。この数は世界全体でも6割をこえ、日本は世界最大の老舗大国であることが知られています。この3000社のなかには、酒、醤油、味噌といった醸造業態の法人が多く含まれています。あなたの街にある老舗も、きっとそんな会社の1つかもしれません。

 

厳しすぎる商いの世界において、確固たる地位をきづいてきた醸造業界。しかし今、過去の歴史のなかでも類をみない逆風のなかにおかれています。たとえば、醤油業界では、20年ほどで2000社あった蔵元が1000を切り、その数は更に減る一方です。同じように清酒業、味噌も廃業が相次いでいます。蔵元の倒産は法人が1つなくなった・・・というだけでなく、地域の文化、地域の味がなくなったという意味と同義です。

 

日本では、明治時代、近代化と引き換えに多く伝統や文化、そして固有の動植物を失う悲劇を生みました。なかでも日本オオカミは、あっと言う間に絶滅し、地球上からその姿を消し、いまでは剥製(はくせい)でしかその姿は見ることができません。なくすのは簡単。しかしなくった生き物や文化をもう1度復活させることは出来ません。醤油の蔵には何億、何兆もの蔵持ち酵母が住み着いているといわれ、それぞれの蔵元の特徴をいろどっています。日本オオカミと等しく、1つの蔵がなくなる意味は、先祖から引き継いできた何億もの菌を絶滅させることにもなるのです。その損失はお金で買えない貴重なものなのです。

 

お醤油や味噌は、天然醸造で仕込めば、完成まで1年以上、商品によっては2年も3年もかかります。しかし、水をつめただけのペットボトルよりも1Lのお醤油の方が安い・・・ そんなギャップにも悩まされてもいます。お客様目線でいえば、安ければ安いに越したことはない。ただし、物には適正価格というものもある。

 

家訓二ストの暮らす茨城県水戸市は、人口27万人の県庁所在地です。しかし水戸には味噌屋も醤油屋も1軒もありません。かつては、横山大観のパトロンとなり、市長を輩出するほどの蔵元があったものの価格競争にもまれ、いつしか市場から消え去ることとなったのです。なくなった味や文化はもう元には戻りません。実は家訓二ストの実家も、姿をけした蔵元の1つです。県内200社あったといわれる醤油屋さんは、いまや19社と言われるまで激減しているのです。

 

家訓二ストは、何倍も高いお醤油を買えないにしても、1本50円、100円という差であれば、ぜひ地元のお醤油を買っていただくことをお勧めします。価格の差以上の豊かさをあなたの人生に届けてくれることを約束します。そんな小さな心がけで守られる「文化」があり、その豊かさは、あなたの家族、そして子どもや孫たちをそっと見守ってくれるはずです。

 

今もがんばる老舗企業 

近年のグローバル社会の伸長にとどまらず、第二次世界大戦、明治維新・・・ 多くの困難を乗り越えてきた老舗の企業たち、そのなかでもとくに長い歴史を紡いできた醸造業界の老舗企業を、その家訓や理念と共に紹介していきます。

  

■醤油

1573年天正元年創業 室次醤油

室次(むろじ)は、福井県福井市に本社を置く醤油醸造企業。現存する日本最古の醤油醸造場。

 

主君の朝倉家が滅亡し、残された女・子供で糀・酒・味噌・醤油などの醸造業を始めたのが同社の起源。創業者の室屋儀右衛門(内田十内)は創業当時、10歳に満たない子供であった。柴田勝家が作った北ノ庄城下、北陸街道と三国街道が合流する交通の要所に上水道(芝原上水)が流れており、醸造に最適な場所であった。四代目室屋次左衛門は、和歌山県紀州湯浅にて醤油製造法を学び、現代につづく企業の礎をつくった

 

室次家訓

良い醤油を造りたいなら、自分を磨け。

醸造にはごまかしはない。

誠心誠意がなければならない。

その人柄や性格がその味に香り、色に出てくる。

 

 ■味噌

1337年延年2年創業 株式会社まるや八丁味噌

最古の味噌醸造元、愛知県岡崎市に本社を置、 1337年 開祖 弥治右ェ門が現岡崎市八帖町に醸造業を始める。 1560年 桶狭間の合戦にて徳川軍の「戦陣にぎり」と称し、味噌が兵食になったと言われている。

 

3つの信念.

1、質素にして倹約を第一とする.

2、事業の拡大を望まず継続を優先する.

3、顧客、従業員との縁と出会いを尊ぶ

 

■酒造

1141年永治元年創業. □須藤本家株式会社

創業からなんと875年(2016年現在)。日本一の歴史をもつ酒蔵が茨城にはあります。 常陸の国で武士と造り酒屋の両方を営んでいた須藤本家は、平安時代から続く蔵元して知られています。

 

須藤家 家訓

「酒・米・土・水・木」

良い酒は良い米から、良い米は良い土から、良い土は良い水から、良い水は良い木から、良い木は蔵を守り酒を守る」という意味の家訓が遺されています

 

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■書籍概要

書籍名: 世界一簡単な「幸せを招く家訓」のつくり方

著者 : 幡谷哲太郎

発売日: 2015年6月1日

 

出版社: セルバ出版 価格 : 1,600円+税  

URL  http://www.amazon.co.jp/dp/4863672063